
Our Work
活動内容
調査研究・情報提供
非営利法人の運営効率化や制度改善に関する調査研究を実施し、学術論文や調査報告書の公表、セミナーなどで成果を社会に発信します。
公益法人設立支援
公益法人の設立を検討している団体に対し、設立趣旨の整理から定款作成、公益認定申請まで設立プロセス全体をサポートします。
バックオフィスのAI活用支援
AI技術を活用した事務処理の効率化や業務自動化を支援し、社会課題解決に向けた法人運営の生産性向上と働き方改革の実現をサポートします。
Officers
役員一覧
| 理事長 | ![]() 堀田和宏 近畿大学名誉教授 |
| 特別顧問 | 藤井 秀樹 京都大学名誉教授・金沢学院大学副学長 |
| 専務理事 | 桑波田 直人 全国非営利法人協会専務取締役 |
| 常務理事 | 高野 恭至 全国非営利法人協会常務取締役 |
| 監事 | 上松 公雄 大原大学院大学教授 |
| 評議員 | 宮内 章 全国非営利法人協会代表取締役 |
| 評議員 | 出口 正之 内閣府公益認定等委員会元常勤委員 |
| 評議員 | 山下 雄次 税理士 |
History
沿革
オンラインメディア「非営利海外事情」を開設
海外の民間公益活動を巡る最新動向を伝えるオンラインメディアとして「非営利海外事情」をnote上に開設しました。
AIチャットボット「全国公益AIナビ」リリース
国内初の公益法人設立特化のAIチャットボット「全国公益AIナビ」をリリースしました。
公式ウェブサイト設置
一般財団法人全国公益支援財団の公式ウェブサイトを開設し、活動内容や役員情報、コラムなどの情報発信を開始いたしました。
設立登記
株式会社全国非営利法人協会(全国公益法人協会)の出捐を受けて、一般財団法人全国公益支援財団として設立登記を完了いたしました。
Column
コラム

「赤い羽根共同募金」使途不明金の再発防止策で属人化は解けるのか|全国46都府県の一斉点検に残る空白
北海道共同募金会が2026年8月24日、使途不明金の発生を受けた再発防止策を公表しました。会計責任者と出納職員と公印の保管責任者を分ける職務分掌は8月17日付で実施済みですが、担当者を固定させない仕組み、単独では送金できないシステム上の制約、外部の目をどこに置くかは、公表文書から読み取れません。同じ事案を受けた全国46都府県の一斉点検の内訳にも、同じ空白が残ります。 中央共同募金会が2026年7月17日に公表した全国緊急一斉点検の結果は、本事案と同様の使途不明金につながる事案は確認されなかった、と結論づけています。ところが内訳を開くと、計算書類と現預金口座残高との照合を直近で行った人が常務理事または事務局長だった共同募金会が、46のうち25、54%ありました。照合する人が事務のトップ本人であるという状態を、この点検は要改善としていません。 事案が表面化した端緒は、2026年2月17日、当時の事務局長個人の所得税法違反の嫌疑で入った国税局の査察でした。あるべき金銭の不足を法人が確認したのが3月末、公表は6月14日です。報道は約1億8000万円が6年間で失われたと伝えますが、法人の公表文書に金額と期間の記載はありません。2026年6月の 前回の記事 では、通帳と印鑑と記帳と承認を一人が握る属人化こそがこの空白を生んだと書きました。8月24日の公表は、その属人化をどこまで解いたのでしょうか。 公表された2つの文書が示す再発防止策 公表されたのは、札幌市長に宛てた2026年8月21日付の 指導事項改善報告書 と、対外向けの8月24日付の 再発防止策 の2つです。前者は、2026年7月22日付の札監指監第680号による札幌市の文書指導への回答です。 実施済みとされているのは、いずれも2026年8月17日付の措置です。経理規程に基づき、会長が会計責任者に事務局次長を、出納職員に主事を任命し、出納業務に従事しない常務理事を公印管理と金融機関届出印の保管の責任者として、公印使用簿の運用を開始しました。今後の措置として、事務決裁規程と経理規程の見直しに2026年12月末という期限が付されました。 役員も交代します。会長と副会長と監事は既に辞任の意向を示しており、常務理事は2026年8月31日に辞任して、新常務理事が9月1日から着任します。 規程がありながら守られなかったという事実 札幌市の文書指導が指摘したのは、規程の不備ではありません。規程からの逸脱です。 指導事項は、直接的な原因として「経理規程や事務決裁規程等の法人の規定に反し、長期間にわたり一人の職員に経理や会計事務を単独で担わせたこと」ほか、決裁手続きの不履行と公印管理の不備を挙げ、根拠規定に社会福祉法第45条の13、第45条の16、第45条の18を引いています。会計責任者と出納職員を分けることも、届出印の保管責任者を指名することも、毎月末に残高を照合することも、すべて経理規程が定めていたものです。定めがあったうえで、そのとおりに行われていなかったのです。 そのうえで札幌市は、会長と常務理事が業務の実態把握と検証を行わず、監事が調査をしなかったことを重大な要因の一つとし、「法人内部の牽制・監督機能が全く働いておらず……理事、監事、理事会が機能不全に陥っていることは明らかである」と述べています。前回の記事で、事務トップ自身が不正を主導する経営者不正は内部の仕組みだけでは防ぎきれない、と書きました。行政庁の文書が、それを名指しで裏書きした形です。 ただし、規程がすべて揃っていたわけでもありません。改善報告書は、現行の経理規程第33条が月次試算表の作成のみを定めているため、会長への報告に係る規定整備もあわせて行う、と書いています。月次の数字を作る定めはありましたが、それを役員へ上げる定めはありませんでした。基本動作は守られず、報告経路は定めそのものがなかったことになります。 再発防止策が挙げる発生原因は、「法人としてのガバナンス意識の著しい欠如」と「会計業務における牽制・監督機能の形骸化」の2つです。しかも「現段階での発生原因としては」と前置きされています。対策の側には、コンプライアンスと各種規程に関する勉強会の定期実施が並びます。勉強会は逸脱を検知しません。規程を知らなければ守れない以上、勉強会は対策の前提であって対策ではないでしょう。前提を対策の欄に書き込むと、逸脱を外から見つける仕組みの不足が見えにくくなります。 前回示した5つの打ち手はどこまで実装されたか 前回の記事では、通帳と印鑑と記帳と承認を別々の人に分ける職務分掌、経理担当者を定期的に入れ替えること、送金に必ず二人の手を要する複数承認、外部の専門家に年に一度帳簿を点検してもらう外部レビュー、記帳と照合に第三者の目を組み込む経理代行という5つを挙げました。公表された対策と突き合わせると、実装されたのは1つ、部分的なものが1つ、2つには手が付かず、残る1つは扱いが定まっていません。 実装されたのは職務分掌です。一人の職員が起案から承認、記帳、印鑑の管理までを担っていた構造は、会計責任者と出納職員と公印の保管責任者に分けたこの一手で崩れます。 部分的なのは複数承認です。出金の際は、出納職員が作成した払戻請求書と出金伝票と証憑書類を会計責任者が照合し、公印管理者の承認を得て金融機関届出印を押印する運用になりました。人と紙と印鑑による三者の関与です。ただしこれは人が手続を守る限りで働く牽制であって、システムが単独の送金を拒む形ではありません。前回、脱印鑑と法人向けインターネットバンキングの複数承認機能を最初の一手に挙げましたが、2つの文書のどちらにも、その導入とキャッシュレス化への言及はありません。 手が付いていないのは、担当者を定期的に入れ替えることと、記帳や照合を外部に出すことです。長期間にわたり一人の職員に単独で担わせたことを行政庁が直接的な原因に挙げているのに、担当替えの周期を定める記載が、どちらの文書にもありません。役割を分けても、それぞれに同じ人が長く座り続ければ、数年後には同じ見えなさが戻ります。 扱いが定まらないのが、外部の専門家による点検です。改善報告書の総論には「外部専門家を活用した監査や、監事監査において新たな会計監査人による外部監査を行う」とあります。しかし会計監査人は、定款に定めを置き評議員会が選任する独立の機関で、監事監査のなかに置けるものではありません。定款変更や評議員会の議決への言及はなく、会計監査人を任意で設置するのか、外部の公認会計士へ監査を委託するのかも読み取れません。しかも対外向けの再発防止策で監督機能の強化として書かれているのは監事監査における証憑確認の徹底だけで、外部監査は現れません。行政庁宛の文書にだけあって、寄付者に向けた文書からは消えています。会計監査人の設置義務は収益30億円超または負債60億円超の法人に限られ、同会は対象外です。義務がないからこそ、外部の目を入れるかどうかの判断が揺れていることが重く見えます。 第三者委員会が設置されないまま公表された暫定の対策 再発防止策が公表された時点でも、第三者委員会は設置されていません。依頼するとされているのは、使途不明金の発生原因、元事務局長の行為による損害額とその方法、役員に関する責任の有無、そして再発防止策です。いくら失われ、どう失われ、役員に責任があるのかは、いずれもまだ確定していません。社会福祉法第45条の20を前提とした役員等への賠償責任追及も、委員会の判断待ちです。法人自身、報告を受けて更なる再発防止策を策定するとしており、今回の対策は暫定です。 原因の全容が分かる前に着手したこと自体は責められません。分かってから動くのでは遅すぎます。問題は、暫定のまま止まらないための期限がないことです。規程の見直しには2026年12月末が示されましたが、第三者委員会の設置と報告に期限はありません。 そのあいだ、資金の穴は福祉の現場に出ています。2026年7月14日、同会は計画された福祉活動に要する資金の 約50%の規模で助成した と公表し、残りの手当ては未定としました。そして2026年8月28日、中央共同募金会が北海道内の地域福祉活動への 緊急支援助成を実施する と公表されました。前回の記事で、信頼が崩れたとき最も割を食うのは寄付を待つ福祉の現場だと書きました。北海道では、その穴を全国の募金が埋めることになりました。 全国46都府県の点検が映したもの 全国緊急一斉点検 は、2026年6月24日から7月3日、北海道を除く46都府県の共同募金会を対象に実施され、回答率は100%でした。設問によっては取引金融機関や市町村共同募金委員会に確認して回答し、回答内容は各会の会長と監事が署名捺印しています。中央共同募金会が改善を求めたのは、口座や届出印の管理担当者に規程の定めがない2県、振込依頼書の作成者と承認決定権者を分けていない4県などです。 一方で、要改善とされなかった数字のなかに、北海道の教訓から見ると引っかかるものがあります。冒頭の54%に加え、インターネットバンキングの利用者が1名という共同募金会が8、17%あります。承認者の変更時の通知先を尋ねた設問には、画面上で完結しメールによる通知はない、という回答もありました。承認者を差し替えても、誰にも知らせが届かない運用です。 点検そのものにも、届かない範囲があります。設問の大半は規程の有無ではなく運用の実施を問うており、設計は行き届いています。ただ、運用を問う設問でも、答えるのは法人自身です。北海道でも監事は置かれ、それでも異常は長期間把握されませんでした。点検は会長と監事の署名捺印を担保に置きましたが、その会長と監事と理事会が機能不全に陥っていると行政庁に断じられた法人が、現に出ています。署名が担保にならない法人こそ、この点検で見つけたい相手のはずです。 自己申告の外に出ている設問は、2つしかありません。全ての取引金融機関に確認したうえで簿外の預金口座の有無を答える設問と、組織的に把握していない借入の有無を答える設問です。北海道で報じられた偽の議事録と簿外口座の型を検知しうるのは、この2つだけでした。 自法人に当てて確認する項目 この点検の設問は、共同募金会に限らず公益法人でも一般法人でも社会福祉法人でも使えます。自法人に当てて確かめてみてください。 預金通帳と証書と金融機関届出印の管理者が別人か。通帳と印鑑を別の場所に保管しているか 金融機関届出印を実際に押しているのは、届出印の管理者本人か。管理者の了解を得て他の職員が押していないか 毎月末の残高照合を、出納も決裁もしていない人が行っているか。直近で照合したのが誰か、名前で答えられるか インターネットバンキングの利用者は何名か。振込依頼書の作成者と承認決定権者が別に設定され、承認者を変更したときの通知が法人代表のアドレスへ届くか 決算時に、取引金融機関の支店から全口座の残高証明を取っているか。一部を除外していないか 取引金融機関に対して、法人が把握していない口座と借入がないかを直接照会したことがあるか 最後の1つが決定的です。前の5つは法人のなかを見れば答えが出ますが、最後の1つだけは、外にある事実を取りに行かなければ答えが出ません。決算時の残高証明の手続へ全ての取引金融機関への照会を一度加えるだけで、簿外口座と無断の借入という2つの型は視野に入ります。 北海道共同募金会の再発防止策は、属人化の入口を塞ぎました。責任者を3人に分けたのは、公表から2か月あまりでの措置として的確です。それでも、これで属人化が解けたとは言えません。担当者を入れ替える周期が定められていないこと、送金がシステムではなく人の手続で守られていること、そして、いくら失われ、どう失われ、誰に責任があるのかがまだ調べられていないこと。この3点が残ります。 同会には経理規程があり、会計責任者と出納職員を分ける定めも、毎月末に残高を照合する定めもありました。足りなかったのは、定めから外れたことを外から見つける仕組みです。役割を分けたら、同じ人がそこに座り続けないようにします。送金はシステムに拒ませます。そして年に一度、法人の外にある事実を取りに行きます。この3つの先に、性善説に頼らない運営があります。 前編にあたる 「赤い羽根共同募金」1.8億円着服はなぜ見抜けなかったのか|公益法人に求められる内部統制 では、事案の経緯と、属人化を解く5つの打ち手の中身を扱っています。 経理代行という選択肢について 役割を分け直したいが人員に余裕がない、記帳や照合に第三者の目を入れたい――そうした場合の打ち手の一つとして、経理代行があります。公益法人会計基準への対応や、提携税理士による税務面の支援を含め、当財団の経理代行担当者が、貴法人の規模と人員体制をうかがったうえで、無理のない業務範囲をご提案します。相談は無料で承ります。 公益法人専門の経理代行について問い合わせる

認可第1号世代の公益信託を読む――100万円の信託と無報酬の信託管理人
2026年4月に始まった新しい公益信託制度で、これまでに認可を受けた公益信託は4件です。この4件が行政庁に提出した事業計画書や収支予算書、信託契約書は、法律の定めによって公表されており、誰でも読むことができます。実際に読んでみると、制度解説からは見えてこない新制度の顔が現れました。当初財産100万円で始まる信託、営利会社が受託者になる信託、そして無報酬で重い権限を担う信託管理人の記録です。 提出書類の公表というもう一つの変化 新公益信託法の変化として語られるのは、受託者の範囲が広がったこと、信託財産に株式や不動産も使えるようになったこと、監督が公益法人と共通の行政庁に一元化されたこと、おおむねこの3点です。ただ、実務の目で見ると、もう一つ大きな変化があります。透明性です。 公益信託の受託者は、毎信託事務年度の開始前までに事業計画書と収支予算書を作って備え置き、年度が明ければ3か月以内に、信託財産に係る財産目録、受託者等名簿、公益信託報酬の支払基準を記載した書類などを作って備え置かなければなりません。そのうえで、これらを行政庁に提出する義務があります(公益信託に関する法律第20条第1項・第2項、第21条第1項。以下「公益信託法」)。そして公益信託法第21条第2項は、行政庁は内閣府令で定めるところにより、受託者から提出を受けた財産目録等を公表するものとする、と定めました。公表の方法について、施行規則はインターネットの利用その他の適切な方法と定めています(第57条)。 閲覧の側の規定もあります。第20条第4項は、何人も、受託者の業務時間内であればいつでも、これらの書類や信託帳簿・計算書類などを含む財産目録等と、信託行為の内容を証する書面について閲覧を請求できるとし、受託者は正当な理由がないのにこれを拒んではならないとしています。開示請求をかけて役所から引き出すのではなく、はじめから見られる状態に置くという設計です。 旧制度では、事業分野ごとの主務官庁が許可し監督する仕組みでしたから、他人の公益信託の設計を通しで読む機会はほとんどありませんでした。いま、内閣府の公益法人informationでは、認可された公益信託の提出書類を実際に見ることができます。制度が変わったと言葉で聞くのと、認可された信託契約書を1条ずつ読むのとでは、つかめるものがまるで違います。 本稿で引用する数字と条項は、すべてこの公表された提出書類によるものです。個人名や口座情報には触れません。関係者の交渉の経緯に立ち入るつもりもありません。読み取りたいのはただ一つ、公益信託法第8条の認可基準13項目という抽象が、契約書の条文としてどう書き下されたのかということです。 認可された4件の顔ぶれ 2026年8月時点で、新制度の公益信託は全国に4件です。内訳は新規が3件、旧制度からの移行が1件。認可日でいえば、6月9日に2件、6月29日に2件です。 公益信託 認可日 受託者 信託財産 地域まるごと「こども応援」公益信託 2026年6月9日 特定非営利活動法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 当初500万円 公益信託アジア コミュニティ トラスト(旧制度から移行) 2026年6月9日 三井住友信託銀行を代表受託者とする信託銀行等4行の共同受託 約2億8,277万円(2026年3月31日現在) 地域共創「子供の未来・教育応援」公益信託 2026年6月29日 ほがらか信託株式会社・コモンズジャパン株式会社の共同受託 当初500万円 公益信託共創体験移動支援基金 2026年6月29日 一般社団法人二地域居住共創協会 当初100万円 4件しかないのに、受託者の顔ぶれがNPO法人、信託銀行、営利の株式会社、一般社団法人と4様に分かれています。金額の幅も、100万円から2億8千万円まで、280倍近い開きがある。この散らばり方そのものが、新制度の設計意図を映しています。 100万円で始まる公益信託 いちばん驚いたのは、公益信託共創体験移動支援基金でした。委託者は個人、受託者は一般社団法人、当初信託財産は100万円です。 信託契約書は、委託者は本公益信託の信託財産として金100万円を受託者に信託する、と書いています。財産目録を見ると、ネット銀行の普通預金に100万円が入っている。それだけです。 事業計画書によれば、初年度は当初信託財産100万円を原資に、少数案件から試行的に開始する。高校生以上の学生が地域の学習活動や住民との交流といった共創体験に参加する際の移動費を実費で支援し、支援金1万円程度の少額案件を20件程度実行することを目標とする。収支予算書の支出の部は、移動費支給額20万円、受託者報酬2万円、その消費税等2千円、送金手数料や通信費などの外部実費・事務費3万円、支出合計25万2千円です。次年度繰越は74万8千円。 20万円を配るための公益信託が、国の認可を受けた。この事実は、制度を説明する言葉としてどんな解説よりも雄弁です。内閣府もメールマガジンで、一般社団法人が受託者であること、100万円という軽量な信託であることに着目してほしいと書いていました。 もっとも、これは行き当たりばったりの設計ではありません。信託財産の運用方法は、普通預金または定期預金、国債・地方債等、合同運用信託・貸付信託の受益権に限られ、株式や投資信託、デリバティブ取引その他価格変動リスクの高い方法による運用をしてはならないと明記されています。受託者は信託財産を固有財産その他の財産と明確に区分して管理し、この公益信託のために開設した専用口座で管理する。支出は信託管理人の監督と選考委員会の議決を踏まえて行う。小さいからこそ、守りの条項が具体的です。 小さく始める道は、別の形でも現れています。地域まるごと「こども応援」公益信託の収支予算書は、当初信託財産500万円に加えて、同じ年度に受取寄付金300万円を見込んでいます。事業計画書は、認可後に受託者の公式サイトなどで広報を行い、翌年度以降の助成に向けて追加寄付を募っていく予定だとしています。器を先に認可で作り、資金は後から集める。財団法人であれば設立時にまとまった財産を要求される場面で、公益信託にはこの順序が選べます。 受託者はもう信託銀行だけではない 旧制度でも、法律の文言上、受託者が信託銀行に限られていたわけではありません。しかし実務では信託銀行がほぼ独占していました。新法は認可基準を能力の基準に置き換え、公益信託事務を適正に処理するのに必要な経理的基礎及び技術的能力があるかどうかで見ることにしました(公益信託法第8条第2号)。 その結果が、4件4様です。こども食堂の中間支援を担うNPO法人、二地域居住をテーマにする一般社団法人、信託会社を含む営利の株式会社2社、そして信託銀行等4行の共同受託。 とりわけ目を引くのは、地域共創「子供の未来・教育応援」公益信託の共同受託です。ほがらか信託株式会社とコモンズジャパン株式会社という営利の2社が並んで受託者になっています。受託者が2人以上ある場合には各受託者の職務に関する事項を信託行為で定めなければならないと施行規則第1条第11号が求めており、この信託でも共同受託と役割分担の条項が置かれています。報酬の配分についても、運営委員に対する報酬は受託者のうち一方が受け取る受託者報酬の中から支払う、という書き方で内部の負担関係を明示しています。 受託者が本業を持つ法人である場合、避けて通れないのが利益相反です。地域まるごと「こども応援」公益信託の契約書は、この点を正面から扱っています。受託者が自主事業として行う公益事務と同種の事業に係る取引は、あらかじめ契約に列挙して包括的に許容し、それ以外の取引は重要な事実を開示して信託管理人の承認を得る、という二段の建て付けです。こども食堂支援を本業とするNPO法人が、こども食堂支援を目的とする公益信託の受託者になる。同じ領域で自分の事業と信託の事業が並走することを前提に、重なる部分は先に契約で許容の範囲を画し、そこから外れるものを信託管理人のチェックに載せる。これは、公益法人が受託者を検討するときに、そのまま参考になる作りです。 報酬が数字で見えるということ 読んでいていちばん考えさせられたのが、報酬でした。公益信託報酬とは、受託者の信託報酬と信託管理人の報酬を合わせたものです。認可基準は、内閣府令で定めるところにより、当該公益信託の経理の状況その他の事情を考慮して、不当に高額なものとならないような支払基準を定めていること、と求めています(公益信託法第8条第11号)。この支払基準を記載した書類は、備置きと提出、そして公表の対象です。つまり報酬は、数字で外から見える。 実際の4件は、まったく違う設計を選びました。 地域まるごと「こども応援」公益信託は、各月末の信託財産残高の平均に対して年7%という定率です。ただし信託管理人報酬と合算して、その年度の事業費の30%を超えることはできないという枠がかかっています。信託管理人の報酬も同じ考え方で、残高が1,000万円を超えた場合に年3%、年600万円が上限、かつ受託者報酬と合算して事業費の30%以内と定めています。残高500万円台で始まる初年度は、この条項では信託管理人報酬は発生しません。 地域共創「子供の未来・教育応援」公益信託は、残高に対して年20%という定率に、最低報酬を組み合わせました。最低額は100万円ですが、信託財産を限度とし、かつ公益事務割合が70%以上となる額を限度とする、という条件が付いています。 公益信託共創体験移動支援基金は、完全な出来高制です。各信託事務年度において現に支払った支給金額の合計額に10%を乗じた額。支払基準は、採択決定額や支給予定額その他未払の金額は算定基礎に含めない、とわざわざ書いています。採択しただけでは報酬は1円も生じない。初年度の予算では、20万円を配って2万円です。 定率7%、定率20%、出来高10%――並べると数字の差が目を引きますが、金額の絶対値を見ると印象が変わります。年20%でも、500万円の信託なら100万円。共創体験移動支援基金の受託者報酬は2万円です。定率の高さは、小さい信託でなお事務が回るようにするための設計であって、報酬額の大きさの話ではありません。 そして、この枠づけには信託によって効き方の差があります。施行規則第24条は、公益事務の実施に係る事業費の額を、その事業費と公益信託報酬その他の管理費の額との合計で割った割合を公益事務割合と定め、第25条はその基準割合を70%とすると定めています。裏返せば、管理費は全体の30%以内。ただしこの基準は、特定資産公益信託には適用されません(公益信託法第8条柱書)。4件のうち3件は契約書で特定資産公益信託であることを宣言しています。教育応援にはその宣言が見当たらず、支払基準には公益事務割合70%以上という条件を自ら書き込んでいますから、4件の中で唯一この基準が現に効く設計になっていると読めます。興味深いのは、残る3件のうちの2件でした。こども応援の契約は事業費の30%以内という上限を自ら条項に置き、移行案件の受託者も管理費を総支出の30%以内とする枠を説明し、自社の報酬テーブルはそれより低い水準に設定したと述べています。適用除外の立場にありながら、同じ発想の歯止めを契約と基準に書いている。 旧制度では、公益信託の受託者報酬は信託事務に要する費用を超えない範囲とされ、受託者が利益を加算した報酬を収受することはできないという運用でした。新制度は、不当に高額でない適正な報酬を収受できることとしたうえで、その基準を公表させ、原則として管理費の割合で縛る。裁量を認めて、代わりに数字を見せる。制度の思想が変わったことは、報酬条項を読むといちばんよく分かります。 制度の急所は信託管理人にある 公益信託には受益者がいません。受益者の定めを設けることはできない、と法律が書いています(公益信託法第4条第3項)。では誰が受託者を見張るのか。信託管理人です。公益財団法人であれば理事会・監事・評議員会が分担する監督機能を、公益信託ではこの1人(または数人)が背負います。 報酬から見ると、この役割はいかにも軽く見えます。教育応援の信託管理人は弁護士で、報酬は年5万円と消費税等相当額、交通費の実費を含む。共創体験移動支援基金の契約書は、信託管理人は無報酬とする、と一行で定めています。実費の弁償だけが信託財産から支弁されます。合議制の機関である選考委員会も、選考委員は無報酬とする、と同じ調子です。 ところが権限を読むと、まったく印象が変わります。共創体験移動支援基金の契約書は、信託管理人の職務及び権限として9項目を列挙しています。事務処理状況と信託財産の状況の報告を受けること、帳簿や証憑書類の提出を求めること、事業計画書・収支予算書・財産目録・収支決算書その他重要書類を承認し、又は意見を述べること、関係規程の制定・改廃を承認すること、選考委員の選任及び解任を承認すること、必要と認めるときは受託者に事務処理の改善を求めること。受託者は少なくとも3か月に1回、処理状況を信託管理人に報告しなければならない。受託者は信託管理人の同意を得なければ辞任することができない。信託財産からの一定の支出は、金額が50万円を超えるときには事前に信託管理人の同意を要する、という金額の閾値を置く契約もあります。 さらに念入りなのは、独立性を守る仕掛けです。信託管理人は受託者及び委託者から独立してその職務を行う、と定めた上で、受託者が信託管理人の解任を求めるに当たっては、その独立性を不当に害する目的でこれをしてはならず、解任を必要とする事実及び相当性を明らかにしなければならないとする。後任の選任について、受託者は候補者に関する情報を提供し必要な事務を補助することはできるが、自ら単独で後任信託管理人を選任することはできないとする。他の2件も、委託者がすでに存しない場合に受託者が後任を選ぶときの方法として、外部の団体が推薦する者から選ぶと定め、推薦者となる団体の名を契約に書き込んでいます。監督する者を、監督される者が単独では選べないようにする。新規の3件に共通する緊張感です。移行案件だけは、前信託管理人が後任を選べない事情があるときには受託者側が選任できるとしており、ここは旧制度からの連続性が残りました。 小規模な受託者の案件ほど、信託管理人の確認事項が厚くなる傾向も見えました。ある認可例では、信託行為に添えられた信託管理人規程が重点確認事項という条を設け、本公益信託の受託者の業務執行体制が小規模であることを踏まえ、公益信託事務の適正性を確保するため次に掲げる事項について重点的に確認するものとする、として8項目を並べています。信託財産と受託者の固有財産との分別管理の状況、支給対象者の選定手続と合議制の機関の議決の状況、個別案件記録の保存状況、支給金額の算定と支給実行の適正性、受託者の固有事業と公益事務との費用配分の状況、公益信託報酬の算定根拠及び二重収受の有無、利益相反や重複支援などの公正性を害するおそれのある事項、そしてそのほか信託管理人が必要と認める事項。同じ規程は基本姿勢の条でも、受託者の業務管理体制等を鑑み、信託管理人は通常求められる要素に加えてより慎重に業務遂行を行う必要があることに留意する、と自ら述べています。 認可基準は受託者に技術的能力を求めますが、それを内部組織だけで備える必要はありません。足りない部分を信託管理人と合議制の機関で補い、その補い方を信託行為に書いて見せる。認可を得た小さな信託は、そうやって基準に届いていました。 年5万円、あるいは無報酬でこれを引き受けるのは、率直に言って重い仕事です。公益信託が今後増えていくとすれば、担い手をどう確保し、その負担にどう報いるかは、制度の急所になると思います。 47年目の移行 4件のうち1件は、新規ではありません。公益信託アジア コミュニティ トラストで、事業計画書の表題には2026年度(第47期)とあります。移行の中身は、驚くほど簡潔です。提出された変更同意書は、1979年11月7日付の旧契約を旧契約第36条に基づいて変更することに合意した、と述べるだけ。当事者欄には、合併や商号変更で今はもう存在しない信託銀行の社名が並び、半世紀の金融再編がそのまま記録されています。あわせて46年前と21年前の覚書・協定書を失効させ、43年前の協定書は有効であることを確認したうえで、そこが引用する法令の条項は改正後の規定に読み替えるものとする、という条項を置きました。 旧制度の言葉が現行制度の言葉に置き換わる場面もあります。この信託は従来、運営委員会という会議体で助成先を審議していました。新契約では選考委員会を設置するとしたうえで、これが公益信託に関する法律施行規則第1条第13号に定める合議制の機関であると書いています。長年の慣行で回してきた会議体を、法令の器に入れ直す。移行とは、財産を動かす手続というより、言葉を入れ替える作業なのだと分かります。 収支予算書は独特です。2026年度の収入は運用収入と寄附金を合わせて277万2千円、対する支出は助成金3,400万円を含めて4,837万1千円で、収支差額はマイナス4,559万9千円。元本を取り崩して配り切っていく予算です。これが認可されるのは、この信託が特定資産公益信託だからです。信託行為で、信託財産を寄附により受け入れた金銭や預貯金・国債等に限る旨と、内閣府令で定める方法によってのみ支出する旨を定めた公益信託については、認可基準のうち収支の均衡、公益事務割合、使途不特定財産額の3つの基準が適用されません(公益信託法第8条柱書)。低金利で運用収益が細っても、元本を取り崩して公益に配り続けられる。この選択肢は、認可を受けた4件のうち3件で選ばれています。 4件に共通する型と揺れている書式 4件を読み終えて残ったのは、認可基準13項目が契約の条文に翻訳されていく手つきの多様さでした。 たとえば第13号は、残余財産の帰属先を信託行為で定めることを求めています。類似の公益事務を目的とする他の公益信託の受託者、類似の公益目的事業を目的とする公益法人、学校法人や社会福祉法人など列挙された法人、国または地方公共団体。実際の4件はいずれも、具体的な団体名を書きませんでした。文言は契約ごとに違いますが、いずれも第13号が挙げる類型のなかから信託管理人の同意または承認を得て選ぶ、という形で揃っています。40年、50年先に誰が残っているか分からない。だから今は枠だけ決め、選ぶ手続を決めておく。同じ判断が4件で独立に選ばれているのを見ると、これは実務の型になっていくのだろうと思います。 一方で、揺れているところもあります。合議制の機関の呼び名は、選考委員会と運営委員会に分かれました。効力発生日の定め方も、行政庁の認可の日とするものが2件、当初信託財産の資金が振り込まれた日とするものと契約の締結日とするものが各1件と、3通りに分かれました。特定資産公益信託であることの宣言も、契約書の前文で述べる例と第2条に置く例があり、前文で述べた信託は収支予算書の冒頭でも重ねて宣言しています。まだ書式が固まりきっていない、施行初年度の様子がうかがえます。 公益信託を検討している方に申し上げたいのは、この4件を読んでみてはどうかということです。制度の解説は、どうしても要件の並びになります。しかし実際に必要なのは、自分の場合にどう書けばよいのかという判断です。100万円の信託がどんな条項で認可されたのか、営利会社の共同受託がどう役割を分けたのか、無報酬の信託管理人にどこまでの権限が与えられたのか。それらはもう、読める形で公表されています。 旧公益信託の移行期限は2028年3月31日です。移行案件はこれから確実に増え、その提出書類もまた公表されます。読める先例が積み上がっていく制度になった。筆者はこれを、新制度のいちばん静かで、いちばん効く変化だと思っています。 当財団では、公益法人・一般法人の運営支援に加えて、公益信託の設計や旧制度からの移行に関するご相談も承っています。財産を公益に充てる器として公益財団法人と公益信託のどちらが適しているか、受託者として引き受けることが自法人にとって現実的かどうか。判断の材料は、当財団の担当者がご一緒に整理いたします。お気軽にお問合せください。

公益信託と公益財団法人はどちらを選ぶべきか――歴史から導く使い分けの基準
2026年4月、新しい公益信託法(公益信託に関する法律、令和6年法律第30号)が施行されました。財産を拠出者の意思に沿って継続的に公益へ充てる主要な器として、公益財団法人と公益信託を現実的に比較できるようになったのです。どちらを選ぶべきかは、設立手続や税制の一覧表を見比べるだけでは決められません。両制度が英米と大陸という別々の法伝統から生まれた経緯までさかのぼると、使い分けの基準がはっきり見えてきます。 この6月、新制度下の第1号となる公益信託2件に、内閣府で認可書が交付されました。1件は地域の子ども支援を目的とする新規の公益信託で、受託者は信託銀行ではなく、全国のこども食堂を支援する認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえです。NPO法人が公益信託の受託者となるのは初めてのことでした。もう1件は、旧制度から移行した公益信託アジア・コミュニティ・トラストです。 意外に思われるかもしれませんが、公益信託という制度そのものは1922年(大正11年)から日本にあります。ところが、最初の公益信託が実際に設定されたのは1977年。制度が生まれてから半世紀余り、ただの一度も使われなかった計算になる。なぜそれほど長く眠り続け、なぜ今になってよみがえったのか。答えは、公益財団法人との生まれの違いにあります。 新公益信託法の施行で何が変わったのか 今回の改革の核心は、公益信託が公益財団法人と同じ土俵に乗ったことです。監督の枠組みが共通化され、個人からの寄附、法人からの寄附、信託財産そのものの税制上の扱いも整えられたことで、財産を公益に充てようとする人は、2つの制度を初めて対等に比べられるようになりました。 旧制度の公益信託は、事業分野ごとの主務官庁が許可し、監督する仕組みでした。新法はこれを改め、公益法人と共通の行政庁が、有識者による合議制機関の関与の下で認可・監督する体制に一元化しています。税制面では、認可を受けた公益信託について、個人が金銭等を拠出・寄附した場合の寄附金控除、法人が支出した場合の一般寄附金とは別枠での損金算入、信託財産から生じる所得の非課税、株式や不動産などを拠出する場合の一定の譲渡所得非課税特例が用意されました。旧制度でも受託者は法律上、信託銀行や信託会社だけに限定されていたわけではありませんが、実務上は信託銀行がほぼ担っていました。新法では公益法人やNPO法人なども受託者となることが明確になりました。旧制度で事実上金銭中心だった信託財産には、株式や不動産も活用できます。公益事務も助成金を配る型にとどまらず、公益活動そのものを受託者が行う運営型へ広がりました。 冒頭の第1号認可2件は、この変化を象徴しています。子ども支援の現場を持つNPO法人が受託者となる公益信託は、旧制度の実務では想定しにくいものでした。公益財団法人と公益信託を、名実ともに比較できるようになったわけです。 では、どちらを選べばよいのか。手続や税制の比較に入る前に、確かめておきたいことがあります。そもそもなぜ、似た働きをする制度が2つ並んでいるのか。答えは、中世のイングランドとヨーロッパ大陸にまでさかのぼります。 十字軍の騎士と修道院――信託と財団という2つの系譜 公益信託と公益財団法人は、英米法と大陸法という別々の伝統から生まれた、出自の異なる制度です。この出自の違いが、現在の制度設計の違いをそのまま説明します。 ここで少し歴史をさかのぼってみましょう。中世イングランドでは、財産の名義をある人に移しながら、その利益を別の人に受けさせる「ユース(use)」という仕組みが発達しました。ユースには、宗教団体による土地保有、封建的負担の回避、死後の財産処分など複数の背景がありました。その成り立ちを説明する逸話の1つが、十字軍に出征する騎士の話です。何年も帰れない遠征を前に、騎士は所領を信頼できる友人の名義に移したと伝えられています。法の上では友人の土地になる。けれども約束はこうです――この土地はあなたのものではなく、残された私の妻子のために持っていてほしい。名義人が約束を破って土地を独り占めしても、法律上の所有権が名義人にある以上、当時のコモン・ロー(イングランドの国王裁判所が判例を通じて発展させた法)の枠内では、妻子は土地について十分な救済を受けられませんでした。救ったのは、国王の良心の番人と呼ばれた大法官です。名義人の良心に訴えて約束の履行を迫ったこの救済の積み重ねが、やがてエクイティ(衡平法)という法体系に育ち、名義と利益を分けて財産を託す仕組み、すなわち信託が確立していきます。1601年には救貧や学問などの公益目的を列挙したチャリタブル・ユージズ法が制定され、公益のための信託は英米の公益活動の中心的な器になりました。 同じころの大陸ヨーロッパは、別の解き方をしていました。教会、病院、救貧院。中世の教会法の伝統では、公益のための財産は、特定の誰かに託すのではなく、財産そのものを目的に結び付けて独立させる方向で扱われます。この発想が近代の法典に受け継がれ、財団という制度になりました。ドイツ民法は財団を、設立者の定めた目的を持続的に実現する、構成員のいない法人と定めています。フランスも1987年の法律で、公益事業のために財産を取り消しできない形で充てる行為として財団を定義しました。日本の財団法人の直接の手本は、この大陸の系譜です。 話を現在に引き付けて整理しましょう。英米は、信頼できる人に財産を託し、財産に目的を刻み込むことで公益を実現した。大陸は、目的のための組織を作り、その組織に法人格を与えることで公益を実現した。公益を担うのは、託された財産か、それとも組織か。数百年かけて分かれたこの2つの答えが、そのまま公益信託と公益財団法人の設計思想になっています。 明治の財団と大正の信託――両方を輸入した日本 日本はこの2つの系譜を、四半世紀の間を置いて両方とも輸入しました。ただし、その後の育て方には大きな差がつきます。 先に来たのは大陸の財団です。1896年(明治29年)の民法34条は、祭祀、宗教、慈善、学術、技芸その他公益に関する社団または財団に、主務官庁の許可によって法人格を認めました。続いて1922年(大正11年)、英米法に範をとった信託法が制定され、公益を目的とする信託、すなわち公益信託も同時に制度化されます。ここまでは、2つの法文化を貪欲に取り込む明治・大正期らしい立法でした。 問題はその後です。公益信託の第1号が設定されたのは、制度化から55年後の1977年。以後も件数は伸びず、用途は奨学金や研究助成に偏りました。使われなかった理由は制度の作りにあります。成立には主務官庁の許可が要り、その基準は官庁ごとにばらばらで、税制優遇は別建ての手続に委ねられて連動しない。結果として、受託者は事実上信託銀行に、信託財産は金銭に、活動は助成型に限られていきました。 2006年の公益法人制度改革は、この構図をかえって際立たせます。法人の側は、登記で設立できる一般法人と行政庁による公益認定の二層構造に生まれ変わり、主務官庁制が解体されました。ところが信託の側は手つかずのまま、旧信託法の該当部分が公益信託ニ関スル法律という大正生まれの法律として切り出され、残されただけでした。片方だけを現代化し、もう片方を80年余り前の枠組みに据え置いたことは、立法の宿題を先送りしたと言わざるを得ません。2024年の新法成立と2026年4月の施行は、この宿題にようやく答えたものです。 法人格の有無が生む制度の違い 現行の2制度の違いは細かく挙げればきりがありませんが、根っこは1つです。公益を担う主体が、法人格を持つ組織なのか、目的に拘束された財産なのか。主な違いを並べると、すべてこの1点から枝分かれしていることがわかります。 なお公益信託では、財産を託す人を委託者、託されて管理・運営する人を受託者、受託者を監督する人を信託管理人と呼びます。信託の内容を定める契約や遺言は信託行為と呼ばれます。 比較項目 公益財団法人 公益信託 制度の骨格 法人格のある組織。法人自身が契約や雇用の主体になる 法人格はなく、受託者が自分の財産と分けて信託財産を管理する 設立の手順 一般財団法人を設立したうえで行政庁の公益認定を受ける 委託者と受託者の信託契約または遺言で設定し、行政庁の認可を受ける 財産の行き先 財団法人自身に帰属する 受託者の下で分別管理される。委託者には戻らず、相続人も地位を継がない できる事業 公益目的事業のほか、一定の収益事業等も営める 奨学金・助成金の給付、公益活動の実施、信託財産の管理運用などを行える。ただし、収益事業を併営する器ではない 運営の機関 評議員会・理事会・監事。評議員3人・理事3人・監事1人の計7人が最少の構成になる 受託者と信託管理人が基軸になる 設立者の意思と関与 定款に反映するほか、設立者本人が代表理事などとして運営に携わり、その子なども理事・評議員として理念と事業を受け継ぐ選択肢がある 目的から給付方法、終了時の扱いまで信託行為に定め、長期的な運営の基準にできる。ただし、行政庁の認可を受けて変更されることがある 税制 寄附金控除や法人税の優遇がある 個人の寄附金控除、法人寄附の別枠損金算入、信託財産から生じる所得の非課税、一定の現物拠出に係る譲渡所得非課税特例がある 終了時の残余財産 公益的な帰属先に引き継ぐ 信託行為の定めに従い、類似目的の公益信託などに引き継ぐ 選択に効く行は3つです。第1に、できる事業の行。公益信託でも、助成金を配るだけでなく、受託者が信託行為に従って公益活動そのものを行う運営型は可能です。ただし、公益財団法人のように、公益目的事業とは別に収益事業等を併営して事業を広げる枠組みではありません。収益事業を営みながら公益活動を広げたいなら、公益財団法人を選ぶことになります。第2に、運営の機関の行。7人の役員等を確保し、評議員会と理事会を毎年動かし続ける人手と費用を負担できるかどうか。第3に、設立者の意思と関与の行。財団では、設立者自身が代表理事などとして事業を動かし、その子なども理事・評議員として運営に携わることで、理念を世代へつなぐ選択肢があります。信託では、設定時に信託行為へ織り込んだ委託者の意思が運営の基準となり、実際の管理・運営は受託者が担います。 組織を作るか器を借りるか――使い分けの4つの基準 使い分けの判断は、次の4つの基準で立てるのが実際的です。順に見ていきましょう。 第1の基準は、事業の型です。施設を運営する、職員を雇う、取引先と契約を結び続ける。そうした継続的な事業体としての活動が中心なら、権利義務の主体になれる公益財団法人が向きます。反対に、財産を運用して奨学金や助成金を給付することが中心なら、組織を持たない公益信託で足ります。 いわば、公益財団法人の設立は自前の店舗を構えて商いを始めることに、公益信託は信頼できる老舗の厨房に献立と代金を託し、決まった膳を届け続けてもらうことに似ています。店舗を構えれば品書きは自在に広げられますが、建物と人手とのれんの維持はすべて自分持ちになる。厨房を借りれば身軽ですが、できるのは託した献立の範囲にとどまる。どちらが優れているかではなく、やりたいことがどちらの型かという話です。 第2の基準は、固定費と財産の規模です。公益財団法人には、役員等を確保し、会議体を回し、事業報告と決算を毎年整えるという組織の固定費がかかります。公益信託は受託者の組織と能力を使うため、専用の事務所も職員も要らず、比較的小さな財産規模でも成り立ちます。基金の運用益で年に数百万円を給付する公益活動を、法人組織を維持しながら行うのでは、費用の釣り合いがとれません。 第3の基準は、設立者の意思をどう残し、自らどこまで関わるかです。公益財団法人では、設立者の想いを定款と基本財産に反映するだけでなく、設立者自身が代表理事などとして事業を率いることができます。さらに、その子などが理事または評議員となり、設立者の理念を受け継ぎながら直接運営に携わる選択肢もあります。財産だけを残すのではなく、自ら公益活動を形にし、次の世代とともに育てていけることは、組織を作る公益財団法人ならではの利点です。一方で、法人が動き出した後の判断は評議員会・理事会という機関が担うため、何十年か先には設立者が想像しなかった事業へ向かうこともありえます。 これに対して公益信託では、公益目的、給付の相手方と方法、信託の終わり方までを信託行為に刻み込み、委託者の死後も運営の基準とすることができます。実際の管理・運営は受託者に託すため、委託者やその家族が自ら組織を率いる型ではありません。ただし、事情の変化に応じ、行政庁の認可を受けて信託行為が変更されることはあります。遺言で設定できることも含めて、遺贈寄附や相続の場面で信託が有力な候補になるのは、この性質によるものです。 第4の基準は、規模の現実です。内閣府の概況によれば、公益法人は2024年12月時点で9,746法人を数え、公益目的事業費用は年に約6.27兆円に上ります。一方、信託協会の統計では、旧制度下の公益信託は2025年3月末で372件、信託財産残高は約520億円です。日本の公益活動の基幹は今も法人型であり、公益信託がそれを置き換えることはないでしょう。公益財団法人を作るほどの規模と体制はないが、財産を公益に充て続けたい。公益信託は、その領域を埋める道具として見るのが正確です。 実務での検討手順と迷ったときの目安 実際の検討では、目的の型、規模、意思の残し方、出口という順で確かめていけば、大きく迷うことはありません。典型的な場面に当てはめてみます。 施設や事務局を構え、職員を雇い、複数の事業を続ける構想なら、公益財団法人です。設立者自身が代表理事として活動を率い、将来は子にも運営に加わってほしいという構想も、公益財団法人から検討することになります。組織の固定費は、事業と理念の承継にその組織が必要である以上、避けられない投資になります。手元の1億円を原資に奨学金を出し続けたいという構想なら、まず公益信託が候補になります。法人を作れば、給付額より管理費のほうが重くなりかねません。自分の死後、財産を郷里の教育支援に充ててほしいという相談なら、遺言による公益信託の設定が視野に入ります。委託者の意思が、信託行為を通じて運営の基準になる型だからです。すでに公益法人を運営していて、特定のテーマの基金を切り出したい場合にも、法人本体と分けて公益信託を設定する設計が考えられます。 それでも迷うときの目安を1つ挙げるなら、5年後に職員を雇っている姿が浮かぶかどうかです。浮かぶなら組織、すなわち公益財団法人から検討する。浮かばないなら財産、すなわち公益信託から検討する。英米と大陸が数百年かけて分かれた組織か財産かという問いは、今日の設立相談の場でもそのまま生きています。 税理士や金融機関の担当者にとっては、顧客の「財団を作りたい」という言葉を、そのまま受け取らないことが出発点になります。設立相談の場でこの言葉が語られるとき、その中身は形式への希望ではなく、財産を公益に充てたいという願いです。2026年からは、その願いを受け止める主要な器として、公益財団法人と公益信託を比較できるようになりました。どちらの器が願いの型に合うかを確かめて示すことが、専門家の新しい仕事になります。 2026年の改革は、2つの制度を1つに統合したのではありません。監督の枠組みを共通化し、個人・法人からの拠出や信託財産に関する主な税制優遇を整えたうえで、対等に比べられる選択肢として並べ直した。選択肢が増えたことこそが、この改革の成果です。十字軍の騎士をめぐる信託の逸話も、明治の篤志家が築いた財団も、問いは1つでした。想いを財産に託すか、組織に託すか。半世紀眠っていた公益信託が動き出した今、財産を公益に充てる検討の入り口では、公益財団法人だけでなく公益信託も並べて考える。それが新制度時代の実務の作法になっていくはずです。旧制度からの移行も始まったばかりであり、第2号、第3号の認可がどのような顔ぶれになるか、今後の動向を注視しておきたいところです。 設立形態の検討段階からのご相談について 財団か信託か、入り口の判断には法人運営の実務感覚が欠かせません。当財団の担当者が、目的と財産規模、想定される体制をうかがったうえで、検討の順序をご提案します。相談は無料で承ります。 公益法人の設立・運営について問い合わせる

「うちは使っていない」がいちばん危ない|公益法人、一般社団・財団法人で拡がるAI利用と3つの備え
職員が善意で、業務を少しでも早く終えるために使う未承認のAI。それが組織の機密や個人情報を、知らぬ間に外部へ流し続けています。「シャドーAI」と呼ばれるこの現象は、AIを正式に導入していない法人ほど――組織としてのルールが何もないぶん――かえって野放しになっています。危険だと説くだけでは止まらないこの問題に、放置でも拙速な禁止でもない「管理された活用」へどう舵を切るか。ルール・教育・安全な環境という3つの備えと、小規模な法人が独力では越えにくい2つの壁まで、整理しました。 会議の音声を、議事録づくりの時短のために、無料のAI文字起こしサービスへアップロードする。そこに悪意はない。少しでも早く仕事を片づけたいという、まっとうな善意からの一手です。けれどもその瞬間、理事会の非公開のやり取りは、どこにあるとも知れない外部のサーバーへ吸い込まれ、二度と取り戻せなくなる。 厄介なのは、当人にやましさがないことではありません。むしろ、危ないと分かっていてなお、手が止まらないことです。デジタルリスク対策を手がけるエルテスが2026年1月に公表した実態調査では、生成AIに非公開情報や社内ファイルをアップロードすることに「抵抗がある」「やや抵抗がある」と答えた人が75.8%に上りました。多くの職員が、リスクをちゃんと感じている。ところが、その抵抗を感じている層のうち64.1%が、実際にはアップロードした経験があると答えています。危険の認識は、行動を止めなかったのです。 この一点が、シャドーAI問題の本質を言い当てています。少人数で業務を回す現場では、目の前の締め切りが、漠然とした不安に勝ってしまう。つまり「危ないですよ」と啓発を重ねるだけでは、この問題は決して解けない。私たちが向き合うべきは、職員の意識ではなく、職員が安全に働ける仕組みのほうです。 「使っていない」つもりの組織がいちばん危ない 「うちはAIなんて使っていないから関係ない」――そう考えている法人ほど、実は危うい。理由は単純で、見えていないものは管理できないからです。 サイバーセキュリティクラウドが2026年5月に行った調査では、日常的にパソコンを使う会社員の67%が、業務で何らかの生成AIを利用していました。内訳はMicrosoft Copilotが約49%、Google Geminiが約36%、ChatGPTの個人アカウントが約35%、ChatGPTの法人契約が約25%。注目すべきは、法人契約よりも個人アカウントの利用率が上回っている点です。組織が契約していようがいまいが、職員は自分のアカウントでAIを使っている。これがそのまま、シャドーAIの温床になります。 SaaS比較サイトのBOXILが2026年1月に行った調査でも、生成AI利用者の14.4%が「会社は導入していないが個人で利用している」と答え、31.9%が「ルールはなく個人の判断に任されている」と回答しました。クラウド会計ソフトのfreeeが2026年6月に情報システム担当者へ行った調査では、66.0%が「シャドーAIの利用が増えている」と実感しているのに、その利用実態を可視化できている組織はわずか13.6%にとどまります。 さらに近年は、ふだん使っている業務ソフトやクラウドサービスの中に、いつのまにかAI機能が組み込まれている「隠れAI」の問題も深刻です。職員がAIを使っている自覚すらないまま、入力した情報がAIに渡っている。セキュリティ評価サービスのアシュアードの調査では、約3社に1社(34.5%)が、自社で使うサービスにAIが含まれているかどうかを確認しないまま業務利用していました。 社団・財団法人には、行政から事業を受託したり、地域で行政を補完したりする、いわば自治体に近い性格の組織が少なくありません。その自治体の現場にこそ、同じ構図がくっきりとした数字で表れています。総務省が2024年末時点でまとめた「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」の速報値では、都道府県と指定都市は実証中や導入予定まで含めればいずれも100%が生成AIに取り組んでいる一方、住民サービスの最前線を担う市区町村――基礎自治体――の導入率は、およそ30%にとどまります。導入が進まない理由として最も多く挙がるのは、取り組む人材がいない、足りないことです。専門知識を持つ担当者を確保できず、組織として安全に使える正規の環境が整わない。そういう組織でこそ、効率を求める職員が個人アカウントへと静かに向かいます。 専任の情報システム担当者を置けない小規模な法人ほど、ルールが未整備のまま、すべてが個人の判断に委ねられています。「使っていない」のではなく、「使っているのが見えていない」。それが多くの組織の実情です。 善意が漏洩に変わる4つの場面 職員はどんな場面で、未承認のAIに情報を入力してしまうのか。社団・財団法人の日常に即して見ると、危うさの輪郭がはっきりします。 第1に、議事録づくりです。理事会や社員総会、評議員会の録音を無料のAIに渡して要約させる。非公開の審議内容が、そのまま外部に蓄積されます。第2に、翻訳や文書の要約です。海外の事例レポートや契約書を個人アカウントのAIに入力して日本語化する。利便性は高いものの、未承認のクラウドへのデータ送信そのものが漏洩の引き金になります。 第3に、メールや提案書の作成です。AIは前提となる文脈を与えるほど質の高い文章を返すため、職員は無意識のうちに、具体的な予算額や交渉相手の事情といった内部情報まで指示文に盛り込んでいきます。そして第4に、最も危ういのが名簿の整理とデータ分析です。寄付者や会員のリスト――氏名、住所、寄付金額が並んだ表計算ファイルを、個人のAIアカウントに貼りつけて分析させる。これは個人情報保護法に正面から抵触しかねない、極めて危険な行為です。 どれも「業務の質を上げたい」という前向きな動機から行われている。だからこそ、管理の目の届かないブラックボックスが、現場のあちこちに静かに生まれていきます。 一度入力した情報は取り戻せない――3つのリスク 無自覚な利用は、組織の存続を脅かす3つのリスクを呼び込みます。 1つめは、情報漏洩と「二次漏洩」です。個人向けの無料AIや安価なサービスの多くは、利用者が入力したデータを、AIの精度を上げるための学習材料として再利用すると規約に定めています。職員が社外秘の名簿を入力すれば、そのデータは提供企業のサーバーに残り、やがて世界中の誰かが似た質問をしたとき、自法人の機密が回答として表に出てくる。これが二次漏洩です。一度学習されたデータを完全に消し去ることは、技術的にきわめて困難です。韓国サムスン電子では、技術者がソースコードの確認や議事録の要約にChatGPTを使い、短期間で重大な情報漏洩を起こしました。社団・財団法人で要配慮個人情報や寄付者情報が流出すれば、社会的信頼が崩れ、寄付の減少や助成の停止、最悪の場合は認定の取消にまで至りかねません。 2つめは、著作権侵害です。AIが生成した文章や画像を広報誌やチラシに流用したところ、既存の著作物に酷似していた――そうした事態は十分起こり得ます。シャドーAIの環境では、誰がどんな指示を与え、どこまで手を加えたかという記録が組織に残りません。いざ侵害を問われたとき、身を守る証拠を出せないまま、無防備にさらされることになります。 3つめは、ハルシネーション、すなわちAIがもっともらしい嘘を出力する現象です。先のサイバーセキュリティクラウドの調査では、生成AI利用者の37%が「出力を確認も修正もせず、そのままコピペして使ったことがある」と答えています。米国では、弁護士がAIに作らせた準備書面に、実在しない架空の判例が引用されていたことが発覚し、裁判所から制裁金を科されました。専門職ですら見抜けない。検証を欠いた誤情報が対外的に発信されれば、ステークホルダーへの説明責任を果たせず、信頼は根もとから揺らぎます。 行政が社団・財団法人に求める水準 公的資金を受け、行政との協働事業を担う社団・財団法人には、一般企業より一段高いコンプライアンスが求められます。関係省庁が示す指針は、シャドーAIを放置することの危うさを、別の角度から照らし出します。 個人情報保護委員会は、生成AIに個人情報を入力する際、公表している利用目的の範囲内かを厳密に確かめること、そして入力データが学習に再利用される場合は「第三者提供」に当たりうるため、学習に使われない設定になっているかを確認することを求めています。経済産業省と総務省の「AI事業者ガイドライン」は、AIを使う組織に対し、利用過程のログ管理や個人情報のマスキング、意思決定の根拠を説明できる透明性の確保を求めます。シャドーAIを放置した状態とは、これらの要件がまるごと欠けている状態であり、ガバナンス上の瑕疵とみなされます。 自治体に課されている水準を見れば、行政が生成AIをどれほど慎重に扱おうとしているかがよくわかります。デジタル庁の指針は、規約への同意だけで使えるクラウド型の生成AIに、原則として要機密情報――秘匿すべき情報――を入力してはならないと定めています。厄介なのは、基礎自治体が扱う情報の多くが個人情報を含み、氏名を黒塗りにしても、ほかの情報と照合すれば個人を特定できてしまう点です。寄付者名簿や会員情報を抱える社団・財団法人も、事情は変わりません。しかも、その入力先が海外の事業者であれば、話は一段重くなります。外国にある事業者へ個人データを渡すには、原則として本人の同意が要るうえ、相手国の個人情報保護制度についての情報提供まで求められるからです。サーバーが国外にあれば現地の法律が及び、外国政府によるデータの検閲や接収を受けるおそれすらある。便利さと引き換えに、データの主権そのものを手放しているのです。 文化庁は、AI生成物を業務で使う段階には、AIを使わない通常の創作とまったく同じ著作権法が適用されると整理しています。情報処理推進機構(IPA)は、機密情報の「入力禁止」の明文化と、出力を鵜呑みにしない「事実確認の義務化」を、最初に取り組むべき基本対策に挙げています。いずれも、勘や善意ではなく、仕組みで律することを求めている点で共通します。 2つの不作為――「禁止」と「放置」 シャドーAIに対する組織の身の処し方は、突きつめると3つしかありません。禁じるか、放っておくか、管理するか。このうち前の2つは、どちらも「組織として手を打たない」という点で、根は同じです。 一見、進んでいるように見えるのは「禁止」のほうです。リスクを察知して業務利用を一律に禁じた法人は、何も決めていない法人より一歩前に出ているように映る。けれども、これは最も安易で、かえって危うい選択です。利用を一律に禁じれば、職員は私物のスマートフォンで抜け道を探します。締め切りに追われる現場の「効率化したい」という欲求は、禁止令ひとつで消えるものではありません。むしろ利用は組織の目の届かない場所へ潜り、把握はいっそう不可能になる。禁止とは、リスクをなくす行為ではなく、リスクから目をそらす行為です。 同じ光景を、私たちは一度見ています。かつて私物のパソコンや未承認のクラウドを業務に持ち込む「シャドーIT」が問題になったとき、頭ごなしの禁止はほとんど機能せず、利用を地下に潜らせただけでした。シャドーAIはその延長線上にあります。違うのは、漏れていくのが保存場所や通信経路ではなく、組織の知識や判断そのものだという点です。 そして、社団・財団法人の現実はといえば――禁止にまで踏み込んだ法人は、むしろ少数派でしょう。圧倒的に多いのは、もう1つの不作為、すなわち「放置」のほうです。AIを導入するかどうかの判断を保留したまま、組織としては禁じてもいない、許してもいない。ただ、職員の個人利用だけが先に走り出している。禁止より穏やかに見えて、その実、無防備さはこちらのほうが上です。ルールも、安全な環境も、何ひとつないのですから。判断を先送りすることは、中立ではありません。リスクを野放しにするという、立派な1つの選択です。 禁止と放置。どちらの不作為を選んでも、行き着く先は同じ――管理されないリスクが、見えないところで積み上がっていきます。取るべき第3の道は、管理された活用しかありません。リスクを許容できる水準に抑えながら、生産性の恩恵は受け取る。その体制を、組織として築くことです。 放置に代わる3つの備え 管理された活用へ移るための備えは、3つに整理できます。どれか1つでは効きません。重ねて初めて機能します。 1つめは、ルールの明文化です。許可するツールと禁止するツールを分け、寄付者の個人情報、未公開の財務情報など「絶対に入力してはならないもの」を具体的に列挙する。あわせて、出力に対する人によるファクトチェックを義務づける。ゼロから法務を動員して作る必要はありません。日本ディープラーニング協会(JDLA)などが無料で公開しているガイドラインのひな形を土台に、自法人の業務に合わせて手を入れれば、費用をかけずに実用的なルールが整います。 2つめは、人の教育です。そして、ここが最も見落とされます。先に見たとおり、危険性を伝えるだけでは行動は変わりません。「抵抗を感じながら、それでも入力してしまう」現場に必要なのは、警告の上塗りではなく、安全な使い方を手を動かして体に覚えさせる訓練です。どこまでなら入力してよく、何をしてはいけないのか。出力をどう疑い、どう確かめるのか。これを具体的な業務に即して反復して初めて、知識は習慣に変わります。 3つめは、安全な環境の用意です。職員の自制に頼るのをやめ、危険な使い方が物理的にできない土俵を組織が提供する。これが最も根本的な解決策です。意外に知られていませんが、お金をかけずに始める道はあります。たとえばMicrosoft Copilotの無償版でも、職員が組織で管理するアカウント(Entra ID)でログインして使えば、入力データがAIの学習に使われない商用データ保護の機能が、追加費用なしで働きます。まずこうした無料の土台で安全な環境を整え、より高度な連携が必要になった段階で、IT導入補助金などを活用して有償版へ移る。小規模な法人にとって、この段階的な進め方が現実的な最適解です。 独力では越えにくい2つの壁 ルール、教育、安全な環境。3つの備えの輪郭は見えました。けれども、職員数が20名ほどの法人が、これを独力で組み上げられるかというと、正直に言って難しい。壁が2つあるからです。 1つめの壁は、ルールを配っても行動は変わらないという、先ほどの事実です。ひな形をダウンロードして回覧しても、現場の手は止まりません。変わるのは、自分たちの実際の業務――議事録、申請書、寄付者対応――を題材に、安全な使い方を反復して体得したときだけです。つまり、配布物ではなく、伴走する研修が要る。2つめの壁は、安全な環境は「設定」が命だということです。無償ツールでデータ保護を効かせるにも、隠れAIの有無を点検するにも、正しい設定と運用の知識が要ります。製品名を知っていることと、自法人で安全に動かせることのあいだには、深い溝があります。 この2つの壁は、外の手を借りることでようやく越えられます。ここで支援者を選ぶなら、基準は1つです。自らAIを使ってみた経験があるかどうか。説くだけの相手の言葉は、現場には届きません。私ども全国公益支援財団(全国公益法人協会)は、まず自分たちの業務でAIによる自動化を実証する「AI駆動自動化委員会」を立ち上げ、外注コストと業務時間を実地で検証してきました。うまくいったことも、つまずいたことも含めて。実践者としての手応えだけが、法人の現場に届く言葉になると考えているからです。 シャドーAIが問うているのは、職員のモラルではありません。善意の職員が、善意のままに危険な一手を打たずにすむ仕組みを、組織が用意できているか。それだけです。「放置か、拙速な禁止か」という2択を抜け出し、管理された活用へ――その一歩を、危険だと知りながら今日もAIを開いている職員のために、踏み出すときが来ています。 AIの安全な活用を実践者と一緒に始める 「放置」でも「拙速な禁止」でもなく、管理された活用へ舵を切ろうにも、ルール作りも職員研修も安全な環境の構築も、人員の限られた法人が独力で組み上げるのは現実的ではありません。全国公益支援財団は、自組織の業務にAIを導入し、外注コストと業務時間を実地で検証してきた「AI駆動自動化委員会」の知見をもとに、貴法人の規模と業務に合わせて、職員向けの安全活用研修(講師派遣・ハンズオン)と、費用を抑えた安全環境のスモールスタート(導入支援)を伴走でご提案します。相談は無料で承ります。 AIの研修・導入支援について問い合わせる

「赤い羽根共同募金」1.8億円着服はなぜ見抜けなかったのか|公益法人に求められる内部統制
2026年6月に北海道共同募金会で発覚した約1億8000万円の着服は、一人の事務局長が通帳・印鑑・記帳・出金をすべて握る属人化が、6年間放置された末の事件でした。外部監査が義務づけられない中小の非営利法人ほど、同じ空白を抱えています。職務分掌と第三者の目をどう実装すれば属人化を解けるのか、規模別の着手順序まで整理しました。 赤い羽根の共同募金から、6年をかけて約1億8000万円が消えた。手を染めたのは外部から忍び込んだ者ではない。会の事務を一手に担っていた事務局長その人だった。 募金箱に小銭を投じた人々の善意を思えば、やりきれない事件です。けれども、悪い人がいた、で片づけてしまうと、私たちは同じ過ちを繰り返します。問うべきは、なぜ6年ものあいだ誰も気づかなかったのか、ではないでしょうか。 この問いは、一法人の不始末にとどまりません。日本ファンドレイジング協会の『寄付白書2025』によれば、寄付したお金がきちんと使われているか不安だと答えた人は74.1%に上ります。最も歴史と信用のある募金ブランドで長年の着服が明るみに出れば、その不安は、やはり事実だったと裏書きされてしまう。ある全国的なチャリティー番組では、寄付金の着服が報じられた直後、募金額が前年の約3億2000万円から約2億2000万円へと、1億円近く落ち込みました。信頼が崩れたとき、最も割を食うのは、その寄付を待っていた福祉の現場です。 なぜ1億8000万円は6年間も気づかれなかったのか 6年間も発覚しなかった核心は、属人化にあります。属人化とは、業務が特定の一人に集中し、周囲からその中身が見えなくなる状態を指します。今回の事件では、出金を起案する権限、それを承認する権限、帳簿に記帳する権限、そして通帳と印鑑を保管する役割が、すべて一人の事務局長に握られていました。 報道によれば、この事務局長は約15年にわたって会計業務から通帳・印鑑の管理までを実質的に一人で掌握していたとされます。出金を起こす人と、その妥当性を確かめる人と、記録する人が同一であれば、誰かの目が誤りや不正を押しとどめる余地は残りません。チェックという仕組みが、構造として存在しなかったのです。 発覚の端緒も、法人の自浄作用ではありませんでした。2026年2月、札幌国税局が事務局長個人の所得税法違反の疑いで強制調査に入り、押収した経理資料と実際の口座残高との食い違いから、偶然に表面化したものです。重層的に設けられていたはずの監事監査や内部監査は、6年間、何も検知できませんでした。内部統制が実質的に機能していなかったことを、これほど雄弁に物語る事実はないでしょう。 過去の横領事件に共通する三つの型 非営利組織の横領は、突発的な出来心ではなく、特定の環境で長期にわたり育つ構造的な犯罪です。過去の事案を並べると、手口に三つの共通した型が浮かび上がります。 一つめは、権限の極端な集中です。資金の引き出しに必要な通帳と印鑑、出金の起案と承認、帳簿への記帳が、一人の人物に委ねられている。ある社会福祉法人では、前理事長が20年以上にわたって法人資金を握り続け、私的に流用していた事例があります。長く同じ人が同じ権限を持つほど、業務はブラックボックス化していきます。 二つめは、期末だけ辻褄を合わせる粉飾、いわば自転車操業です。横領が長く発覚しない法人では、監査のタイミングにだけ計算書類の帳尻を合わせる技術が使われています。北海道共同募金会の事務局長も、決算期や監査の直前になると金融機関や取引先から一時的に資金を借り入れて口座残高を補填し、監査が終われば速やかに返済していたとされます。さらに理事会の承認を経ない偽の議事録を作り、法人の社会的信用を使って金融機関から融資を引き出し、組織の目が届かない簿外口座まで開設していました。 三つめは、内部監査の敗北と、外部要因による偶然の発覚です。これらの巨額横領のほとんどは、法人みずからの監事監査では見つかっていません。国税の査察、経営権を譲渡する前の調査、税務調査を恐れた本人の自白――きっかけはいつも組織の外からやってきます。内部の目だけでは、もはや止められないのです。 「福祉に悪人はいない」――性善説はなぜ不正を防げないのか 非営利組織の最大の弱点は、性善説という組織風土にあります。崇高な目的のために働く内部の人間に、悪事を働く者などいないはずだ――この善意の前提が、皮肉にも不正の温床になります。 今回の事務局長は、報道や調査によれば、明るく、業務に精通し、対外的な信頼も厚いエース級の人物だったといいます。そうした献身的な人材に対して、相互の監視や牽制を求めることは、相手の善意を疑う無礼な行為として避けられがちです。しかし内部統制とは、本来、魔が差す一人を想定して組み立てるものです。善意への過度な依存と人間関係への遠慮が、不正に手を染める心理的なハードルを下げてしまう。善意を前提にした設計は、その善意が一度破られた瞬間に、丸ごと崩れ落ちます。性善説は制度ではなく、祈りに近いと言わざるを得ません。 興味深いことに、近代的な会計監査もまた、性善説が裏切られた苦い経験から生まれました。19世紀半ばの英国は、鉄道狂時代と呼ばれる投資ブームに沸いていた。「鉄道王」と称されたジョージ・ハドソンは、十分な利益が出ていないにもかかわらず、資本を取り崩して配当を払い続け、帳簿を巧みに取り繕った。やがて粉飾は露見し、1849年に彼は失脚する。株主たちは、自分たちの目では経営者の粉飾を見抜けないと痛感しました。独立した第三者に帳簿を検証させる――今日の会計監査の原型は、人を信じるだけでは資産は守れないという、痛い教訓から形づくられたのです。 外部監査が義務づけられない中小法人という空白地帯 翻って今日の状況を見ると、その第三者の目が、日本の中小の非営利法人にはほとんど届いていません。会計監査人(公認会計士や監査法人による外部監査の担い手)の設置が義務づけられるのは、一定規模を超える大きな法人に限られているからです。 社会福祉法人の場合、義務の対象は、収益30億円超または負債60億円超といった一定規模を超える法人に限られます。これは平成28年の社会福祉法改正(2017年施行)でガバナンス強化の一環として導入された基準ですが、北海道共同募金会の年間寄付は6億〜7億円規模で、対象の外にあります。公益社団・財団法人にも会計監査人の基準は設けられていますが、こちらは負債50億円以上などの大規模な法人が対象で、やはり多くの中小法人は枠の外に置かれています。社会福祉法人については、当初、対象を収益20億円超または負債40億円超、さらに収益10億円超または負債20億円超へと段階的に広げる構想もありましたが、現場の費用負担への懸念から、その拡大はいまのところ見送られたままです。 結果として、年に数億円の公金や寄付を扱う法人であっても、専門家の外部監査がまったく届かない空白地帯に取り残されています。内部の監事に期待すればよい、という反論もあるでしょう。監事には本来、財務諸表を監査できる者を加えることが求められますが、実態としては地域の名士や有識者が名誉職的に就くことも多く、高度な会計の知見を備えているとは限りません。総勘定元帳と実際の通帳残高を突き合わせるという基本的な手続きさえ省かれれば、表面を取り繕った書類は容易に監査をすり抜けてしまいます。 属人化を解く打ち手をどう組み合わせるか 属人化を解く特効薬は、一つではありません。次の五つは、どれが優れているという話ではなく、組み合わせて初めて効きます。自法人の規模と人員に合わせて、できるものから重ねていくのが現実的です。 通帳と印鑑、記帳と承認を別々の人に分ける 最初の一歩は、職務分掌です。出金を起案する人、それを承認する人、帳簿に記帳する人、通帳と印鑑を保管する人。この役割を一人に兼ねさせないという考え方です。人を増やさずとも、誰がどの役割を持つかを決め直すだけで、一人完結の構造は崩せます。 経理担当者を定期的に入れ替える 同じ人が長く同じポストにとどまるほど、業務は見えなくなります。数年ごとの担当替えをルールにすれば、引き継ぎのたびに業務が棚卸しされ、ブラックボックスが解けていきます。完全な異動が難しい小規模法人でも、年に一度、別の職員が記帳内容を確かめるだけで、相互の牽制が働き始めます。 送金に必ず二人の手を要する仕組みにする 複数承認、いわゆるデュアルコントロールです。いわば、金庫の鍵と暗証番号を別々の人が持ち、重要な操作には必ず二人の手が要る仕組みに近いものです。法人向けインターネットバンキングの複数承認機能を使えば、起案者と承認者がシステム上で分離され、一人では送金そのものができなくなります。あわせてキャッシュレス化を進め、紙の通帳と印鑑に頼る運用から脱すれば、操作の記録も改ざんしにくい形で残ります。 外部の専門家に年に一度、帳簿を点検してもらう 監査法人による本格的な財務諸表監査は中小法人には重いものですが、法定の監査とは別に、外部の専門家へ点検だけを任意で依頼する方法があります。通帳の原本残高と総勘定元帳の突合、特定の高額支出の証憑確認といった、絞り込んだ手続だけを外部の税理士や公認会計士に頼むやり方で、外部レビューと呼ばれることもあります。法定監査の代わりにはなりませんが、費用を抑えながら第三者の目を年に一度入れられます。会計監査人の設置基準を段階的に引き下げ、行政が小規模法人のこうした取組みを後押しすることも、制度として残された課題でしょう。 記帳と照合に第三者の目を組み込む 記帳や入出金の照合といった日々の事務を外部に出すこと自体が、内部牽制として働きます。経理代行も、この第三者の目の一つです。人員に余裕のない中小法人が、職務分掌と外部のチェックを比較的低い費用で同時に実装する手段になり得ます。 それでも経営者不正は防ぎきれない――各打ち手の限界 ここまでの打ち手には、正直に認めておくべき限界があります。事務トップ自身が不正を主導する経営者不正は、内部の仕組みだけでは防ぎきれません。 北海道共同募金会の事件は、事務局長という事務のトップによる経営者不正でした。職務分掌もローテーションも、それを命じ、運用する側の人間が不正の当事者であれば、容易に骨抜きにされます。偽の議事録や簿外口座のように、統制そのものを迂回されてしまえば、内部の目はすり抜けられる。だからこそ、組織の指揮系統から独立した外部の目――会計監査人や外部レビュー、記帳の外部化――を併せて持つしかありません。代行さえ入れれば防げた、と言い切ることはできない事件です。内部の牽制と外部の検証、その二重の目があって初めて、経営者不正にも手が届きます。 規模別・何から始められるか 何から着手すべきかは、法人の規模で変わります。小さな法人ほど、一度にすべては実装できません。費用と効果を見比べ、順序を決めることが肝心です。 まず取りかかりたいのは、脱印鑑とネットバンキングの複数承認です。新たな人を雇わずとも導入でき、単独での送金を即座に止められます。次に、通帳と印鑑の保管者と記帳する人を分ける。これも人を増やさず、役割を組み替えるだけで実現できます。そのうえで人手がどうしても足りなければ、記帳と照合の外部化や、年に一度の外部レビューで、外の目を補います。 費用の目安も押さえておきましょう。専任の経理職員を一人雇えば、社会保険料などを含めて年に400万円を超えるのが通例です。一方、外部レビューや経理代行は月に数万円から始められます。監査法人による会計監査人の選任は、中小法人にはなお重い負担です。要は、外部の目をどの形で買うかを、規模に応じて選ぶということです。費用のかからない職務分掌から始め、足りない部分を外部のサービスで補う。この順序であれば、小さな法人でも無理なく属人化を解いていけます。 善意を疑うことと、善意が壊れても資産が守られる仕組みをつくることは、別の話です。今回の事件が問うたのは、一人の事務局長の倫理ではなく、それを6年間止められなかった私たちの仕組みのほうでしょう。 法人としてまず着手すべきは、通帳と印鑑を握る人と記帳する人を分け、送金には二人の手を要する状態をつくることです。そのうえで、組織の外にある独立した目を一つ加える。性善説に頼る運営から、善意が裏切られても回る仕組みへ。赤い羽根が払った1億8000万円の代償を、同じ空白を抱える法人が学びに変えられるかどうかに、これからの信頼回復はかかっています。 経理代行という選択肢について 自法人だけでは職務分掌を組み切れない、記帳や照合に第三者の目を入れたい――そうした場合の打ち手の一つとして、経理代行があります。公益法人会計基準への対応や、提携税理士による税務面の支援を含め、当財団の経理代行担当者が、貴法人の規模と人員体制をうかがったうえで、無理のない業務範囲をご提案します。相談は無料で承ります。 公益法人専門の経理代行について問い合わせる

監事を兼ねる顧問税理士は「関連当事者」?!|公益法人認定法改正で拡がる開示・公表と記帳代行を切り出す実務
令和7年4月施行の令和6年公益法人会計基準と改正後の公益認定法(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律)の組み合わせにより、監事を兼ねる顧問税理士は、関連当事者注記の対象と、認定基準上の独立性確保という二つの規律を同時に背負う立場に置かれます。記帳代行を外部に切り出して合算金額を年間100万円基準内に収める業務分離が現実的な打ち手となりますが、認定基準上の独立性論点は別途残ります。会計開示と公益認定基準を二段に分けて整理し、監事ポジションと長年の顧問関係の双方を維持するための実務手順を見ておきましょう。 ある公益財団法人では、設立時からの顧問税理士に監事を引き受けてもらい、月額の顧問料、記帳代行、給与計算、年度末の税務申告までを一社にまとめて発注していました。顧問税理士への支払額は監事は無報酬のため、顧問料として年間180万円ほど。事務局長は長年「先生にお任せしておけば安心」と考えてきましたが、令和7年度決算を前にした評議員会で「関連当事者との取引はどう書くのか」と尋ねられ、答えに窮します。気付けば令和6年改正で「関連当事者との取引の有無」は事業報告書類の公表項目にも加わっていました。この監事は無報酬・非常勤のため、平成20年基準下では関連当事者に該当せず、顧問料180万円は長年注記対象外として処理されてきたものでした。令和6年基準下ではこれが反転します。問題の入口は会計の話でも、奥には認定法が問う監事の独立性という別の論点が控えています。順を追って見ていきましょう。 論点1|会計開示と公益認定基準――二段ロケットで動き出した二つの規律 監事兼務税理士の問題を考えるうえで最初に押さえておきたいのは、令和6年改正で性質の異なる二つの規律が同時に動き出した点です。 一つ目は、令和6年公益法人会計基準と運用指針による関連当事者注記制度です。財務諸表の注記として関連当事者との取引内容、金額、取引条件を開示する仕組みで、改正後の公益認定法第21条・第22条と認定法施行規則第46条第1項第3号ホの新設により、関連当事者との取引の有無が事業報告書類「事業活動に関する重要な事項」にも記載され、内閣府の公益法人インフォメーションで公表対象となりました。制度の運用構造は二段になっています。財務諸表の注記には属性・取引内容・金額・取引条件等の明細を開示し、事業報告書類には「関連当事者との取引の有無」のみを記載する建付けで、注記で適切な開示がなされていれば事業報告書類は「有」と記すだけで足ります。 二つ目は、改正後の公益認定法第5条の公益認定基準です。同条第12号で理事と監事の間に親族関係などの特別利害関係がある場合の選任排除が新設され、第16号で公益法人に対し外部監事の最低1名設置が義務化されました。施行は令和7年4月1日、外部監事と特別利害関係排除はいずれも現任監事の任期満了後から適用される経過措置付きです。 両者は同じ問題に異なる角度から光を当てる規律ですが、根拠条文も性質も別物です。前者は開示の透明性を、後者は認定の適格性を規律しており、違反した場合の帰結も、注記漏れに対する行政庁による指導と認定取消・勧告等とでは大きく異なります。本稿の章立てごとに枠組みを意識すると、判断軸が混線せずに済むはずです。 論点2|なぜ「新設」ではなく「範囲拡大」と呼ぶべきか 「令和6年基準で関連当事者開示が新たに導入された」という説明を見かけますが、正確ではありません。関連当事者注記の制度自体は平成20年公益法人会計基準にも存在しており、令和6年改正の要点は、対象範囲の拡大と、事業報告書類による公表対象化の二つにあります。 範囲拡大の代表例が、平成20年基準時代の「有給常勤者に限る」という限定の削除です。旧基準下では役員・評議員が関連当事者に該当するのは有給常勤者に限られていたため、無給・非常勤の監事は注記対象から事実上外れていました。令和6年基準ではこの限定が削除され、無給・非常勤の監事も明確に関連当事者の範囲に入ります。さらに従業員及びその近親者、法人でない社員・基金拠出者・設立者及びそれらの近親者なども新たに加わりました。 監事が関連当事者に該当する根拠は明快です。一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第63条等により、監事は法人法上の役員とされ、公益法人会計基準の運用指針第84項(4)「役員又は評議員及びそれらの近親者」に当てはまります。監事個人と顧問契約を結んでいる場合だけでなく、監事が代表する税理士法人と契約している場合も、同項(5)「役員又は評議員及びそれらの近親者が議決権の過半数を有している法人」として関連当事者取引に該当する余地があります。 範囲拡大の立法趣旨は、認定法第5条第3号・第4号により特別利益供与が禁止される対象者(公益認定法施行令第1条で具体化)と、関連当事者の範囲とを概ね一致させる点にあります。役員等の地位を利用した利益誘導の有無は報酬の有無と必ずしも結び付かないため、有給常勤者という限定が削除されたものと整理されています。なお、関連当事者との取引それ自体が問題視されるわけではありません。制度の目的は、特別利益供与が行われていないことを注記で確認できるようにする点にあり、適正な取引条件のもとで結ばれた契約は、開示されてもなお適正な契約として残ります。 論点3|監事報酬と顧問料・記帳代行料は、注記の扱いがどう違うのか 実務上の分岐点となるのが、運用指針第86項に列挙された注記対象から除外される取引の範囲です。条文は、(1)一般競争入札その他取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引、(2)役員又は評議員及び従業員に対する報酬・賞与・退職慰労金の支払、(3)当該公益法人に対する寄付金、の三つを除外として置いています。 監事報酬は(2)に該当するため、関連当事者である監事個人への支払いであっても注記不要です。一方、監事である税理士に別途支払う顧問料、記帳代行料、給与計算料、決算書作成料、税務申告報酬は、いずれも(2)の報酬には含まれず、原則として注記対象になります。 「(1)取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引」に該当するという解釈の余地はあり得ます。税理士業界の通常価格水準で契約していれば、一般取引相当として扱える可能性は否定できません。ただし提供者が利害関係者である監事自身という構造を踏まえれば、「明白」だと言い切るには慎重さが要ります。条文が掲げる「一般競争入札」や「預金利息及び配当金の受取」と並べて読めば、(1)は提供者と公益法人との利害関係が取引条件に影響しないことが構造的に担保されている場面を想定した規定と読むのが素直であり、監事兼務税理士との随意契約をこの類型に持ち込むには相応の説明が必要です。 重要性基準も押さえておきましょう。運用指針第88項は、関連当事者が法人か個人かで枠組みを分けています。役員又は評議員及びそれらの近親者は個人類型に当たり、同項(2)により、活動計算書項目・貸借対照表項目のいずれについても総額100万円超で開示対象に到達します。月額顧問料3万円、月額記帳代行料5万円、年間決算料30万円といったごく標準的な契約構成でも、合算で100万円を超えるケースが少なくありません。一方、監事が代表する税理士法人と契約している場合は法人類型として同項(1)が適用され、経常費用に係る取引は活動計算書の形態別科目ごとに経常費用合計額の100分の10超、貸借対照表項目に係る取引は資産合計額の100分の1超が判定基準となります。形式上は個人類型より緩いように見えますが、契約金額が小規模法人の経常費用に占める割合は決して小さくないため、油断はできません。 注記すべき内容も軽くないものです。運用指針第85項により、注記対象となった取引については、取引の内容、種類別の取引金額、取引条件及びその決定方針、債権債務の科目別期末残高、取引条件の変更があった場合の影響まで開示が求められます。なお、内閣府FAQ問Ⅳ-6-㉙により、個人を関連当事者として注記する場合には氏名の開示までは求められておらず、属性も「監事」「公認会計士・税理士」程度の記載で足ります。プライバシー配慮の観点ですが、それでも契約金額や取引内容、取引条件の決定方針までが開示・公表されるため、身内取引の印象を完全に消すことはできません。 論点4|認定基準が問う独立性は、なぜ開示とは別の枠組みなのか ここから枠組みBに入ります。改正後の公益認定法第5条第12号は、理事と監事の間に配偶者・三親等内の親族など一定の特別利害関係がある場合の選任を排除する規律で、新規導入された認定基準です。同条第15号・第16号により、公益法人に対しては外部理事と外部監事を最低1名ずつ設置することが義務化されました。ただし外部理事については小規模法人を対象とした除外規定があり、外部監事は規模を問わず設置が求められる点に違いがあります。外部監事の要件は外部理事より厳しく、業務執行理事以外の理事や元理事も外部監事になることはできません。 監事を兼ねる顧問税理士に記帳代行まで丸ごと頼む構図は、いわば自分で書いた答案を自分で採点するようなものです。先生方の本分は税務と監査ですから、日々の記帳まで同一の事務所が担えば、監事として帳簿を点検する局面で、自身の事務所の処理を自身で監査する場面が生じます。 顧問契約を結んでいる税理士・公認会計士が外部監事になれるかどうかは、別途の論点です。内閣府FAQ問Ⅱ-2-⑧では、法人と顧問等との個別の契約内容に照らして判断する必要があるが、一般的に、使用人とは指揮命令系統に入っている者を指すと考えられ、第三者的な立場である場合は使用人とは見なされない、という整理が示されています。顧問契約のみであれば外部監事の適格性を直ちに失うわけではない、という立て付けです。 ただし公益認定等ガイドラインは「特定の営利企業と多額の支出を伴う契約を継続的に行うなど国民の疑念を招き得る行為」を別途指摘しています。形式的に開示要件・認定基準を満たしていても、実質として独立性が疑われる契約構造であれば、行政庁から指摘を受ける可能性が残ります。形式適合と実質判断は別の評価軸として読み解く必要があります。 論点5|記帳代行を切り出すという現実的な解と、その限界 解決策の選択肢は概ね四つに整理できます。①監事を交代する、②顧問契約を全面解除する、③記帳代行など定型業務だけを切り出す、④全業務を別税理士に移管する、です。①②④はいずれも監事ポジションか顧問関係そのものを失います。長年の信頼関係を維持しつつ、開示・独立性のリスクを下げられるのは③だけで、これが多くの法人にとっての現実的な解となります。 業務分離の設計はシンプルです。監事業務、税務申告、税務相談、決算書チェックといった、税理士の専門性が必須で監事業務とも整合する領域は、これまで通り先生に残します。一方、記帳代行、給与計算、請求書発行や入出金管理といった経理事務は、関連当事者取引としての金額が大きく、独立性疑義の主因にもなりやすいため、外部の経理代行へ切り出します。 これにより、契約金額の大半を占めていた記帳代行料が関連当事者取引から外れ、合算金額が100万円基準を下回るケースが増えます。月額顧問料5万円・年間決算料30万円のみであれば1事業年度で90万円となり、注記不要の範囲に収まる計算です。事業報告書類でも「関連当事者との取引の有無」を「無」と記載でき、公表段階での身内取引感を抑えられます。公益認定等ガイドライン第5章第2節第1⑵④ウⅲにより、注記を要する関連当事者取引がない場合には事業報告書類で「無」と記載できる取扱いが示されています。 ただし業務分離が緩和するのは枠組みAの会計開示の論点までであり、枠組みBの独立性論点を完全に解消するわけではありません。改正後の公益認定法第5条第12号の特別利害関係排除や外部監事の選任は、組織として別途向き合う必要があります。記帳代行の切り出しを「すべての解」と位置づけてしまうと、認定基準上の論点を見落とすことになりかねません。 結びに代えて――先生方の独立性を守る業務設計を 監事兼務税理士という関係は、長年の信頼に支えられてきた組織運営の知恵です。令和6年改正は、この関係そのものを否定するものではありません。会計開示の透明化と公益認定基準の独立性確保という二つの要請に応えながら、先生方の役割を再設計するための機会と捉えるのが本筋でしょう。 実務の段取りは、関連当事者の棚卸し、契約の合算金額の把握、監事の先生との対話、業務分離方針の決定、契約変更と引継ぎ――の5段階で整理できます。先生方への切り出しは、監事ポジションを尊重した提案として、決算前の落ち着いた時期に行うのが現実的です。先生方ご自身も、令和6年基準下で開示・公表が広がる構造を認識されると、業務分離を歓迎される場面が少なくありません。本稿で取り上げた論点を踏まえ、自法人の関連当事者構造を一度棚卸ししていただきたいと思います。 公益法人専門の経理代行をお探しの方へ――無料相談のご案内 監事を引き受けてくださっている顧問税理士の先生に、記帳代行までまとめて発注しているがこのままで良いか不安だ。関連当事者の注記対応や事業報告書類の記載で行政庁から指摘を受ける前に整理したい。先生方との関係を維持したまま、業務分離を進めたい――こうしたお悩みをお持ちの公益法人、一般社団法人、一般財団法人の方は、当財団の経理代行サービスにご相談ください。 当財団の経理代行担当者が、貴法人の規模、事業内容、現行の契約構成をうかがったうえで、先生方の監事業務と税務領域はそのままに、定型業務だけを切り出す業務分離プランをご提案します。公益法人会計基準に対応した記帳、提携税理士による税務申告までの一気通貫の支援、関連当事者注記の整理――いずれも当財団の標準仕様です。相談および見積りは無料で承ります。 監事兼務税理士との関係整理を検討中の理事・事務局長の方、あるいは法人と顧問先との関係性に課題意識をお持ちの士業の先生方も、お問合せフォームから現状をお聞かせください。 公益法人専門の経理代行について問い合わせる
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