一般財団法人全国公益支援財団
「赤い羽根共同募金」使途不明金の再発防止策で属人化は解けるのか|全国46都府県の一斉点検に残る空白

「赤い羽根共同募金」使途不明金の再発防止策で属人化は解けるのか|全国46都府県の一斉点検に残る空白

北海道共同募金会が2026年8月24日、使途不明金の発生を受けた再発防止策を公表しました。会計責任者と出納職員と公印の保管責任者を分ける職務分掌は8月17日付で実施済みですが、担当者を固定させない仕組み、単独では送金できないシステム上の制約、外部の目をどこに置くかは、公表文書から読み取れません。同じ事案を受けた全国46都府県の一斉点検の内訳にも、同じ空白が残ります。

中央共同募金会が2026年7月17日に公表した全国緊急一斉点検の結果は、本事案と同様の使途不明金につながる事案は確認されなかった、と結論づけています。ところが内訳を開くと、計算書類と現預金口座残高との照合を直近で行った人が常務理事または事務局長だった共同募金会が、46のうち25、54%ありました。照合する人が事務のトップ本人であるという状態を、この点検は要改善としていません。

事案が表面化した端緒は、2026年2月17日、当時の事務局長個人の所得税法違反の嫌疑で入った国税局の査察でした。あるべき金銭の不足を法人が確認したのが3月末、公表は6月14日です。報道は約1億8000万円が6年間で失われたと伝えますが、法人の公表文書に金額と期間の記載はありません。2026年6月の前回の記事では、通帳と印鑑と記帳と承認を一人が握る属人化こそがこの空白を生んだと書きました。8月24日の公表は、その属人化をどこまで解いたのでしょうか。

公表された2つの文書が示す再発防止策

公表されたのは、札幌市長に宛てた2026年8月21日付の指導事項改善報告書と、対外向けの8月24日付の再発防止策の2つです。前者は、2026年7月22日付の札監指監第680号による札幌市の文書指導への回答です。

実施済みとされているのは、いずれも2026年8月17日付の措置です。経理規程に基づき、会長が会計責任者に事務局次長を、出納職員に主事を任命し、出納業務に従事しない常務理事を公印管理と金融機関届出印の保管の責任者として、公印使用簿の運用を開始しました。今後の措置として、事務決裁規程と経理規程の見直しに2026年12月末という期限が付されました。

役員も交代します。会長と副会長と監事は既に辞任の意向を示しており、常務理事は2026年8月31日に辞任して、新常務理事が9月1日から着任します。

規程がありながら守られなかったという事実

札幌市の文書指導が指摘したのは、規程の不備ではありません。規程からの逸脱です。

指導事項は、直接的な原因として「経理規程や事務決裁規程等の法人の規定に反し、長期間にわたり一人の職員に経理や会計事務を単独で担わせたこと」ほか、決裁手続きの不履行と公印管理の不備を挙げ、根拠規定に社会福祉法第45条の13、第45条の16、第45条の18を引いています。会計責任者と出納職員を分けることも、届出印の保管責任者を指名することも、毎月末に残高を照合することも、すべて経理規程が定めていたものです。定めがあったうえで、そのとおりに行われていなかったのです。

そのうえで札幌市は、会長と常務理事が業務の実態把握と検証を行わず、監事が調査をしなかったことを重大な要因の一つとし、「法人内部の牽制・監督機能が全く働いておらず……理事、監事、理事会が機能不全に陥っていることは明らかである」と述べています。前回の記事で、事務トップ自身が不正を主導する経営者不正は内部の仕組みだけでは防ぎきれない、と書きました。行政庁の文書が、それを名指しで裏書きした形です。

ただし、規程がすべて揃っていたわけでもありません。改善報告書は、現行の経理規程第33条が月次試算表の作成のみを定めているため、会長への報告に係る規定整備もあわせて行う、と書いています。月次の数字を作る定めはありましたが、それを役員へ上げる定めはありませんでした。基本動作は守られず、報告経路は定めそのものがなかったことになります。

再発防止策が挙げる発生原因は、「法人としてのガバナンス意識の著しい欠如」と「会計業務における牽制・監督機能の形骸化」の2つです。しかも「現段階での発生原因としては」と前置きされています。対策の側には、コンプライアンスと各種規程に関する勉強会の定期実施が並びます。勉強会は逸脱を検知しません。規程を知らなければ守れない以上、勉強会は対策の前提であって対策ではないでしょう。前提を対策の欄に書き込むと、逸脱を外から見つける仕組みの不足が見えにくくなります。

規程上の職務分離・印鑑管理・月末照合と、一人への集中・決裁不履行・監督機能不全という実態の対比

前回示した5つの打ち手はどこまで実装されたか

前回の記事では、通帳と印鑑と記帳と承認を別々の人に分ける職務分掌、経理担当者を定期的に入れ替えること、送金に必ず二人の手を要する複数承認、外部の専門家に年に一度帳簿を点検してもらう外部レビュー、記帳と照合に第三者の目を組み込む経理代行という5つを挙げました。公表された対策と突き合わせると、実装されたのは1つ、部分的なものが1つ、2つには手が付かず、残る1つは扱いが定まっていません。

実装されたのは職務分掌です。一人の職員が起案から承認、記帳、印鑑の管理までを担っていた構造は、会計責任者と出納職員と公印の保管責任者に分けたこの一手で崩れます。

部分的なのは複数承認です。出金の際は、出納職員が作成した払戻請求書と出金伝票と証憑書類を会計責任者が照合し、公印管理者の承認を得て金融機関届出印を押印する運用になりました。人と紙と印鑑による三者の関与です。ただしこれは人が手続を守る限りで働く牽制であって、システムが単独の送金を拒む形ではありません。前回、脱印鑑と法人向けインターネットバンキングの複数承認機能を最初の一手に挙げましたが、2つの文書のどちらにも、その導入とキャッシュレス化への言及はありません。

手が付いていないのは、担当者を定期的に入れ替えることと、記帳や照合を外部に出すことです。長期間にわたり一人の職員に単独で担わせたことを行政庁が直接的な原因に挙げているのに、担当替えの周期を定める記載が、どちらの文書にもありません。役割を分けても、それぞれに同じ人が長く座り続ければ、数年後には同じ見えなさが戻ります。

扱いが定まらないのが、外部の専門家による点検です。改善報告書の総論には「外部専門家を活用した監査や、監事監査において新たな会計監査人による外部監査を行う」とあります。しかし会計監査人は、定款に定めを置き評議員会が選任する独立の機関で、監事監査のなかに置けるものではありません。定款変更や評議員会の議決への言及はなく、会計監査人を任意で設置するのか、外部の公認会計士へ監査を委託するのかも読み取れません。しかも対外向けの再発防止策で監督機能の強化として書かれているのは監事監査における証憑確認の徹底だけで、外部監査は現れません。行政庁宛の文書にだけあって、寄付者に向けた文書からは消えています。会計監査人の設置義務は収益30億円超または負債60億円超の法人に限られ、同会は対象外です。義務がないからこそ、外部の目を入れるかどうかの判断が揺れていることが重く見えます。

5つの打ち手の実装状況。職務分掌は実装、複数承認は部分実装、定期交代と外部化は未着手、外部点検は未確定

第三者委員会が設置されないまま公表された暫定の対策

再発防止策が公表された時点でも、第三者委員会は設置されていません。依頼するとされているのは、使途不明金の発生原因、元事務局長の行為による損害額とその方法、役員に関する責任の有無、そして再発防止策です。いくら失われ、どう失われ、役員に責任があるのかは、いずれもまだ確定していません。社会福祉法第45条の20を前提とした役員等への賠償責任追及も、委員会の判断待ちです。法人自身、報告を受けて更なる再発防止策を策定するとしており、今回の対策は暫定です。

原因の全容が分かる前に着手したこと自体は責められません。分かってから動くのでは遅すぎます。問題は、暫定のまま止まらないための期限がないことです。規程の見直しには2026年12月末が示されましたが、第三者委員会の設置と報告に期限はありません。

職務分掌は実施済み、規程見直しは2026年12月末が期限、第三者委員会の設置・報告は期限なしという対比

そのあいだ、資金の穴は福祉の現場に出ています。2026年7月14日、同会は計画された福祉活動に要する資金の約50%の規模で助成したと公表し、残りの手当ては未定としました。そして2026年8月28日、中央共同募金会が北海道内の地域福祉活動への緊急支援助成を実施すると公表されました。前回の記事で、信頼が崩れたとき最も割を食うのは寄付を待つ福祉の現場だと書きました。北海道では、その穴を全国の募金が埋めることになりました。

全国46都府県の点検が映したもの

全国緊急一斉点検は、2026年6月24日から7月3日、北海道を除く46都府県の共同募金会を対象に実施され、回答率は100%でした。設問によっては取引金融機関や市町村共同募金委員会に確認して回答し、回答内容は各会の会長と監事が署名捺印しています。中央共同募金会が改善を求めたのは、口座や届出印の管理担当者に規程の定めがない2県、振込依頼書の作成者と承認決定権者を分けていない4県などです。

一方で、要改善とされなかった数字のなかに、北海道の教訓から見ると引っかかるものがあります。冒頭の54%に加え、インターネットバンキングの利用者が1名という共同募金会が8、17%あります。承認者の変更時の通知先を尋ねた設問には、画面上で完結しメールによる通知はない、という回答もありました。承認者を差し替えても、誰にも知らせが届かない運用です。

46都府県の点検結果。残高照合が常務理事または事務局長は25会54%、インターネットバンキング利用者1名は8会17%、自己申告の外へ出る設問は2問

点検そのものにも、届かない範囲があります。設問の大半は規程の有無ではなく運用の実施を問うており、設計は行き届いています。ただ、運用を問う設問でも、答えるのは法人自身です。北海道でも監事は置かれ、それでも異常は長期間把握されませんでした。点検は会長と監事の署名捺印を担保に置きましたが、その会長と監事と理事会が機能不全に陥っていると行政庁に断じられた法人が、現に出ています。署名が担保にならない法人こそ、この点検で見つけたい相手のはずです。

自己申告の外に出ている設問は、2つしかありません。全ての取引金融機関に確認したうえで簿外の預金口座の有無を答える設問と、組織的に把握していない借入の有無を答える設問です。北海道で報じられた偽の議事録と簿外口座の型を検知しうるのは、この2つだけでした。

自法人に当てて確認する項目

この点検の設問は、共同募金会に限らず公益法人でも一般法人でも社会福祉法人でも使えます。自法人に当てて確かめてみてください。

  • 預金通帳と証書と金融機関届出印の管理者が別人か。通帳と印鑑を別の場所に保管しているか
  • 金融機関届出印を実際に押しているのは、届出印の管理者本人か。管理者の了解を得て他の職員が押していないか
  • 毎月末の残高照合を、出納も決裁もしていない人が行っているか。直近で照合したのが誰か、名前で答えられるか
  • インターネットバンキングの利用者は何名か。振込依頼書の作成者と承認決定権者が別に設定され、承認者を変更したときの通知が法人代表のアドレスへ届くか
  • 決算時に、取引金融機関の支店から全口座の残高証明を取っているか。一部を除外していないか
  • 取引金融機関に対して、法人が把握していない口座と借入がないかを直接照会したことがあるか

最後の1つが決定的です。前の5つは法人のなかを見れば答えが出ますが、最後の1つだけは、外にある事実を取りに行かなければ答えが出ません。決算時の残高証明の手続へ全ての取引金融機関への照会を一度加えるだけで、簿外口座と無断の借入という2つの型は視野に入ります。

法人内部の5つの確認から、全取引金融機関への直接照会へ進み、簿外口座と無断借入を確認する流れ

北海道共同募金会の再発防止策は、属人化の入口を塞ぎました。責任者を3人に分けたのは、公表から2か月あまりでの措置として的確です。それでも、これで属人化が解けたとは言えません。担当者を入れ替える周期が定められていないこと、送金がシステムではなく人の手続で守られていること、そして、いくら失われ、どう失われ、誰に責任があるのかがまだ調べられていないこと。この3点が残ります。

同会には経理規程があり、会計責任者と出納職員を分ける定めも、毎月末に残高を照合する定めもありました。足りなかったのは、定めから外れたことを外から見つける仕組みです。役割を分けたら、同じ人がそこに座り続けないようにします。送金はシステムに拒ませます。そして年に一度、法人の外にある事実を取りに行きます。この3つの先に、性善説に頼らない運営があります。


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経理代行という選択肢について

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執筆者

桑波田直人(くわはた・なおと)

(一財)全国公益支援財団 専務理事

(株)全国非営利法人協会専務取締役。(公社)非営利法人研究学会常任理事・事務局長。公益法人専門誌『公益・一般法人』創刊編集長等を経て現職。編著に『非営利用語辞典』、『新訂版 公益法人 一般法人の機関と運営』(全国公益法人協会)、他担当編集書籍多数。